卒業生デザイン集は、工業意匠系同窓会事業として2007年に企画されました[注1]。このデザイン集は、1990年3月に発行された「IDCU40 千葉大学工学部工業意匠学科同窓会会員作品集」[注2]の第2集として位置づけられます。また、このデザイン集が企画された前年の2006年4月~5月の2ヵ月間、千葉市美術館で開催された「戦後日本デザインの軌跡1953-2005──千葉からの挑戦」[注3]の開催趣旨を引き継ぐものです。
「IDCU40」は、A4版、196ページの本。参加者は239名でした。出版部数は1800冊。そのほとんどの部数は、毎年の工業意匠学科新入生への入学祝い──卒業生の後に続いて素晴らしいデザインをして欲しいとの願いを込めたプレゼントとして、約10年にわたって贈られました。
千葉市美術館の展覧会は、出品点数約550点[注4]、出品者数は約300名[注5]。出品デザインは、鉛筆から自動車まで、すべて実物展示を原則としました。この展覧会は、美術館が行った「デザイン展」として画期的なもので、千葉市民はじめ多くの人々に、デザインが生活に及ぼす影響について改めて認識させました。また、大学の1つの学科の卒業生がなしとげた社会的役割の大きさに驚きの目を向けさせました。
「IDCU40」の発行から約20年が経過し、出版物をめぐる状況は大きく変化しました。インターネットによるコミュニケーション環境が社会的に浸透してきました。そこで、今回の卒業生デザイン集は、電子データとしてDVDに収録することとしました。また、デザイン学科ホームページで「卒業生デザイン集WEB版」として公開することとしました。
筆者は、2006年3月、千葉大学を定年退職。その後、グランドフェローとして、千葉大学全体の広報のデザインについてお手伝いしています。これに協力してくれるのが、広報ボランティアグループ「クリエイティブ」[注6]の学生さんたちです。卒業生デザイン集も、「クリエイティブ」の歴代メンバーの多大な助力をいただきました。この助力なしでは、デザイン集は完成しなかったことでしょう。末尾に名前を記して謝意を表します。
同窓会事業を開始してから6年、卒業生デザイン集の参加者は108名となりました。事業の一応の区切りとして、この度DVD版を制作することとしました。また、冊子を小部数発行することとしました。「卒業生デザイン集WEB版」は、参加者があるごとにデザイン学科ホームページに掲載していて、すでに多くの方々に閲覧されています。本学入試課の話では、WEB版は受験生のほとんどが見ていて、デザイン学科受験の動機にもなっているとのこと。今や、インターネット検索で「卒業生デザイン集」と入れると上位に出てくることから反響の大きさが分かります。
本学科の卒業生は約3800名になります(2013年10月現在)。今回の卒業生デザイン集に参加いただいた108名は、残念ながら多くはありません。同窓会としては懸命に参加呼びかけをしましたが、「IDCU40」の参加者、千葉市美術館展覧会の参加者を越えることができませんでした。この理由は、今回の事業体制が組織だっていなかったせいだと思われます。「IDCU40」では、同窓会長を始めとして約20名の編集実行委員が、事業開始から刊行までの4年間に19回の会議を持ち、その間、各委員は同窓生への参加働きかけを精力的に行いました。
翻って、今回の事業は、同窓会事業とはいえ、各回卒業生の幹事が参加呼びかけすることはありませんでした。幹事会は、「IDCU40」の時代には機能していましたが、この20年は総会のみが年に1回、または2年に1回開催されるばかりです。
今回の事業は、企画者であり担当者である筆者(宮崎紀郎)にほとんどの仕事が委ねられました。ボランティア学生は懸命に協力してくれましたが、限界がありました。同窓会として、デザイン学科教員の皆様にこの事業の意義を理解していただく努力が不足していました。教員ルートから卒業生へ参加呼びかけがあれば、もっと多くの参加者があったと思われます。
卒業生の行ったデザインは、デザイン学科の貴重な財産です。それは同時に、千葉大学の財産でもあります。千葉市美術館の展覧会が示したデザインの力──戦後のデザインを牽引してきたのは工業意匠学科、デザイン学科です。このことをしっかりと発信する責務が、デザイン学科には課されていると思います。卒業生は、教育の成果です。卒業生が行ったデザインを世に知らしめることは、デザイン学科の価値を高めます。ひいては在学生のデザイン意欲を喚起し、受験生の拡大につながるはずです。こうしたよい循環を生む努力を、デザイン学科、千葉大学、そして同窓会はし続けなければなりません。
今回の参加者は少ないものの、いずれのデザイン業績も素晴らしいものです。この背後には、今回は参加いただけなかったけれど、同様に素晴らしいデザイン業績をあげている3千数百名の卒業生が存在します。それぞれは、日本の、世界のデザインを支えています。千葉大学は、デザインで世界を牽引してきた、それは今後とも続くといっても過言ではありません。
このデザイン集をご覧いただいて、デザインが果たす社会的役割の大きさに気づき、日常生活でのデザインの意義を理解していただければうれしく思います。また、今後、デザインの世界に身を投じたいと決心するきっかけになれば、このデザイン集の役割は果たせたといえるでしょう。
次回の卒業生デザイン集には、今回の反省を踏まえて、より多くの参加者が集まることを切に願っています。
2014年10月10日
卒業生デザイン集担当
宮 崎 紀 郎
デザイン工学科元教授
千葉大学名誉教授
[注1]
「卒業生デザイン集」は、千葉大学工業意匠系同窓会の事業として2007年3月、同窓会総会で承認された。事業企画は宮崎紀郎(元千葉大学グランドフェロー)、当時の会長・原正樹氏(25回生)の賛同と当時の副会長・渡邉誠氏(32回生)と当時の会計・小野健太氏(44回生)の強力なサポートがあり実現した。
2015年3月、参加者108名のデザイン業績を収録したDVD 500枚を制作予定。冊子も小部数制作する。WEB版は、2008年から、参加者があり次第、デザイン学科ホームページに掲載している。
[注2]
「IDCU40」は、工業意匠学科卒業生・永田喬氏(9回生)、片岡昭之氏(同)らが構想した千葉大学工業意匠学科「Who’s Who」をもとに、当時の会長・白井正治氏(2回生)が1986年4月開催の工業意匠系同窓会総会で新企画事業として出版を提案し承認された。これを受けて、同窓会幹事会で出版編集委員を選出。以降、「出版準備会」の名称で19回の会議を行い、1990年3月15日完成・発行に至った。発行時の同窓会長は青木茂吉氏(4回生)。冊子タイトルは、「IDCU40 千葉大学工学部工業意匠学科同窓会会員作品集」Works by Graduates of Department of Industrial Design Chiba University 総予算543万円、発行部数1800冊、頒布価格5000円、1990年3月15日発行、完成までに4年を要した。
「IDCU40」の全ページはPDFファイルとして、この卒業生デザイン集に収めた。
[注3]
千葉市美術館の展覧会は、宮崎紀郎(11回生・当時千葉大学工学部デザイン工学科教授)が2001年に企画。これに賛同した森仁史氏(当時松戸市教育委員会学芸員)が、千葉市美術館に開催を持ちかけて実現した。開催期間は、2006年4月1日(土)~5月28日(日)の2ヵ月間。監修は、森仁史氏と宮崎紀郎。開催には、千葉市美術館学芸員・西山純子氏の多大な尽力があった。企画から開催まで5年を要した。
千葉市美術館・連絡協議会発行(2006年4月1日)の展覧会カタログ「戦後日本デザインの軌跡1953-2005──千葉からの挑戦」参照。
[注4]
出品項目としては395点。約550点は、項目がシリーズであるものを1点ずつ数えた概数。
[注5]
展示されたデザインの中で卒業生氏名が明示されていないものがあった。いくつかの企業は、当該デザインが千葉大学卒業生のデザインであることを認めて出展したが企業ポリシーとして、特定のデザイナーを公表していない。このため、卒業生情報から推定したおよその参加人数である。
[注6]
千葉大学広報ボランティアグループは、2006年、当時の学長・古在豊樹氏と副学長・宮崎清氏の発案で発足した。古在学長は、千葉大学の存続には広報が重要であるとの認識があった。これには、大学ホームページの充実が欠かせないと考えていた。また、宮崎副学長は、ホームページのみならず出版物なども含めた全学すべてのデザイン統一(ユニバーシティアイデンティティ)を目指していた。
そこで大学の方針として広報学生ボランティアを募ることとなった。その取りまとめ役には筆者が指名された。ボランティアの呼びかけに数名の学生が応募。ボランティアグループ「クリエイティブ」が、2006年4月発足することとなった。「クリエイティブ」のネーミングは、ボランティアに最初から参加してくれた菱沼隆さん(当時大学院工学研究科デザイン科学専攻後期課程社会人学生)による。菱沼さんは、WEBデザイナーとしてデザイン事務所を持っていて、WEB版のデザインならびにウェブアップ作業の一切は彼のおかげである。
以下は、卒業生デザイン集に協力いただいた大学院工学研究科デザイン科学専攻学生、デザイン工学科・デザイン学科学生である。(敬称略)
菱 沼 隆 廣 畑 好 章 蒋 暁 峰 日 橋 直 昭
千 原 和 彦 中 村 友 美 金 澤 正 子 渡久地 佳 奈
大 野 由 花 櫻 井 一 輝 粟 田 智 紀 上 田 理 恵
瀧 山 愛 渡 邉 理 恵 田 中 重 昌 荒 井 彩 香
竹 村 彩 香